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若者の力、シニアの経験を世界の被災地「ふくしま」へ
●比曽地区 菅野啓一宅除染実験
要約
バックホーを使用していぐねの除染、裏庭の除染、横庭の除染を行った。
これまでなかなか除染効果を出すことができなかった二階部分などでも
と、30%程度の改善を図ることができた。
また、居間では
まで線量を落とすことができた。
これまでの経緯
比曽地区の居宅周辺、田畑、山林などの線量を計測してきたが、田畑で6~7μSv/h、山林で10μSv/hを越えるなど、厳しい現実が分かってきていた。
菅野啓一宅は、原発事故後に計画避難したため、事故以前の状態のまま放置されていたが、折を見て線量計測を行うなかで、どこまで除染できるのか、そのためには何をしなければならないのかなど、たびたび議論を重ねてきた。
住居に対して、
前週(9月1日-2日)は、それまでに枝打ちなどで発生した大量の杉落葉その他の汚染物を、居宅から20mより外側へ搬出した。これは、国の除染基準である居宅から20mまでの範囲を除染するという方針に準拠したもので、今回の本格除染に備えるための作業である。
しかし裏庭・横庭・いぐねなどの地面は除染してこなかった。
特にいぐねについては、居宅内で二階部分の線量が一階部分の線量に比較して有意に高いために、その寄与が疑われてきた。
梯子などを使っていぐねの枝打ち、高圧洗浄など、簡単にできる作業範囲での除染活動を行ってきたが、一向に大きな改善の気配がなかったために、もう一歩踏み込みいぐねの地面の除染が必要との認識に達していた。
今回の作業目的
バックホー(油圧ショベル)を使いいぐねまで入り込んで徹底除染を行う。
作業内容
実際の作業としてはバックホーと農作業用クローラ(運搬具)を使い「山林除染」と同じ要領で杉落葉、雑草などを取り除く作業を行った。
しかしいぐねでの「山林除染」の方法だけでは見かけはきれいになったものの、その線量は
【補足資料】屋敷林周りの土壌汚染
(落ち葉、腐葉土層かき出し後の土壌放射能分析)2012.09.17追加
菅野啓一宅いぐねの土壌は表層の杉などの落葉や雑草の下には腐葉土があり、さらに下は黒土が0.7~1m近くもある、ふわふわとしてよい土壌であった。そしてその下に粘土質の高いローム層が厚く積もっている。
これの除染ということで黒土10cmまでを除染する、という方針を立て、いぐね、裏庭、横庭に適用することとした。
作業の手順はおおよそ以下の通り。
作業結果
残念ながら裏庭・横庭については上記手順を完結させることはできなかった。
(引き続き啓一さんが月曜に作業を継続し完結)
線量結果
番号 | 場所 | 除染前(μSv/h) | 除染後(μSv/h) |
---|---|---|---|
[1] | 居間 | 1.8 | 1.0 |
[2] | 二階廊下 | 2.8 | 2.0 |
[3] | 裏庭 | 10~16 | 2.5 |
[4] | 裏庭-横庭 | 9~12 | 3.2 |
[5] | 法面 | 8.0 | 2.8 |
[6] | いぐね1 | 8~10 | 2.7 |
[7] | いぐね2 | 8~10 | 3.4 |
[8] | いぐね3 | 8~10 | 2.5 |
[1]~[8]は除染後線量を計測した場所(啓一宅周辺の図参照)
課題だった二階部分でも30%の除染効果があったことは大きな前進であった。しかし一方では二階廊下から外に線量計を出して計ってみると2.4μSv/hなどと、まだかなり高い。
いぐねの枝打ちは居宅の高さとほど同等の高さまでしか行うことができなかった。このため今回の除染で地面からの線量は激減させることができたものの、いぐねからは依然かなり強い影響が残っていることが知れる。
考察
ここの土壌はいぐねではかなりの深さまで「ふかふか」の黒土であり、上部は杉木立が覆っているものの、雨などで地面への浸透もかなり進んでいたものと思われる。
磐梯山から降ったものかどうか、地表1m位にかなり厚いローム層があり、これによりローム層以下の深さへのセシウムの浸透は阻止されているものと思われる。
裏庭・横庭などは居宅建築時いぐねの土壌を削って建てられたものと思われ、ローム層の深さがいぐねに比べ浅く、20cm程度で露出してくるものだった。
今回試みたバックホーでの剥ぎ取り除染は、人手による除染に比べ何倍もの効率をあげることができた。
比曽などの高線量地帯でも、この方法をとることができるならば、かなり効率よく除染をすすめることができるのではないか。
このいぐねは緩斜地であり、また、木と木の間が比較的広く、今回使った小型バックホーによる除染・剥取は、これを自在に操る技能を持っていればだれでも行うことのできる方法と思われる。
一方、ここのいぐねの木の高さは20m近くもあり、下枝を枝打ちする程度では影響を取り除くことはできないと思われる。これらの木々をまるまる切り倒してしまうか、それとも思い切って高みまで枝打ちし、いぐねの付着したセシウムの影響を抑えるなどの方法を模索してみることが今後の一つの課題となる。
その他
屋根瓦についてはこれまで高圧洗浄(60MPa~80MPa)で洗浄を試みてきたが、高温水蒸気を噴霧することで瓦の奥に入り込んだセシウム粘土や苔などを除染できるという知見もあるようなので、必要なら試行してみるべきだろう。
家周囲の高さ方向の空間線量についてこれまで一度計測したが、今回の除染結果によってどの程度に線量減少となったかを再度計測することが必要となってきた。
[注]除染土の処理について
地表から剥ぎ取った除染土壌を穴に埋めることについて、ご懸念をお持ちの方もあるかと思います。
各種の研究によって、セシウムは土壌の中の粘土粒子に固定されて、粘土から水に溶け出すことがなく、粘土が移動しない限りは移動しないことがわかっています。このため、今回の除染土処理は、腐葉土層の下にある粘土層まで穴を掘ってセシウムを含む除染土壌を埋め、その上を十分な厚さの健全な非汚染土壌で覆いました。
覆土の遮蔽効果で地上への放射線を低く抑えることができ、かつセシウムが地下水などへ漏れ出す危険性も抑えることができます。
もちろん、完全ということはありませんので、今後も注意深くモニタリングを継続していきます。
以下の資料も合わせてご参照ください。
http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/fsoil/mizo120827-2.pdf
http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/fsoil/mizo120827-3.pdf
●スウェーデン視察団来訪
この日、スウェーデンから視察団の来訪がありました。
この視察団は「KAMEDO」という組織が東日本大震災と福島の原発事故を調査し報告書を作成するために派遣した専門家の調査グループです。
KAMEDOは、1964年から続く組織で、現在はスウェーデン健康福祉委員会の一部となっており、世界各地の災害、事故の現場へ調査団を派遣して報告書を作成することを任務としています。
今回日本に派遣された視察団は、医療グループと除染グループに分かれており、飯舘村を訪問したのは除染グループの13人(随行する大使館員を含む)です。政府の緊急事態局職員、原発立地の地方行政府職員、放射線の専門家、農業の専門家という構成でした。
最初に菅野宗夫さん宅で、宗夫さんが事故から現在までの経過、事故後に考えていること、今の思いなどを語った後、外に出て、宗夫さん宅周辺でふくしま再生の会とともにやっている各種の再生への取組を説明しました。
その後、宗夫さん、田尾さんもバスに乗り込んで説明しながら、山津見神社、草野の除染モデル地区、いちばん館の見守り隊詰所とまわって、最後に比曽の菅野啓一さん宅まで行きました。
啓一さん宅では、啓一さんが事故当時、比曽の地区長として少ない情報に振り回されながら対応しなければならなかったことや、避難後に地区をまとめていくために苦労したことなどが報告されました。
住居裏のいぐね(屋敷林)の除染現場を視察した後、啓一さん宅の居間で、まとめの会が行われ、団長のPelle Postgardさんが
「バスの中から美しい村の風景を見ながら、こうしたことが我が国で起きてほしくないと考えていました。同時に、村を愛し守るというみなさんの強い決意、行動力に打たれました。」
と感想を語りました。
レポートは来年の春に、インターネット上で公表されるとのことでした。
●イネの測定サンプル採取
佐須の試験田で栽培しているイネは、農地除染の効果、土壌のセシウム汚染と米へのセシウム移行量の関係、カリウム施肥によるセシウム移行抑制効果の検証などを目的としています。
最終的に刈り取った後にセシウムの移行量を測定しますが、その前の段階でも移行量を測定しておくことにして、測定用のサンプルを刈り取りました。
イネは「乳熟期」(モミの中がミルク状)、「糊熟期」、「成熟期」という段階で成長しますが、現在の佐須のイネは「糊熟期」です。モミを爪でつぶすことができて、中のコメが白い粉になります。
佐須の試験田は、
という区画があり、それぞれにカリウムの施肥を「する」「しない」という2つの区画があります(セシウムはカリウムと化学的な性質が似ていて、植物がカリウムと間違えてセシウムを取り込んでしまうのを阻害するためにカリウムの濃度を上げます)。
また、佐須の他に、北前田の伊藤さんの田んぼもあり、そちらにも3区画あります。
これらの区画それぞれから5か所、1か所あたり15株(モミが2.5リットル採取できる量)を採取し、モミ、茎・葉、根という部分に分けて放射能測定をします。
つまり、13区画×5か所×15株=975株を刈り取り、刈り取り後の株を掘り出して根に着いた泥をきれいに洗い落とすという作業を行ったわけですが、これは予想以上にハードでした。
採取したサンプルは乾燥させた後、測定班によって測定されます。
[注]収穫(採取)したコメについて
この試験栽培は、農研機構との研究提携に基づいて実施されており、今回のようにサンプルとして中間的に刈り取ったり、最終的に刈り取ったりした稲藁やモミは、すべて埋却処分されます。
●比曽住居除染まとめ
比曽地区は飯舘村の南部に位置し、美しい自然に恵まれた高原地帯(標高600メートル程度)です。
9月8日-9日の報告にもあるとおり、村内では比較的線量が高い地域で、地上1メートルにおける空間線量が5μSv/hを超える場所が珍しくありません。
住居とその周辺を徹底的に除染することによって、どの程度まで居住空間の線量を下げられるのか。2012年7月から、比曽地区の菅野啓一さんとともに除染実験に取り組んできましたが、その中間的な成果報告がまとまりました。
これまでにやってきたことは、
です。
これらの除染作業を行った結果は以下の通りです。
屋敷林周辺の除染実証試験 於比曽(PDF 4.6MB)
いぐねの地表と地上1メートルの線量はいずれも大幅に低下していますが、まだ十分に下がったとは言えません。
いぐねの土壌放射能の値がすでに大幅に下がっていることと、ラジコンヘリによる高所の線量測定の結果(杉の葉に近いほど線量が上がっている)から、いぐねの杉の葉が汚染されていることが強く疑われます。
そこで、今後は
などを実施して、住居の線量をさらに一段下げる試みに取り組んでいきます。
●水田の湛水遮蔽実験
東大の久保教授、溝口教授らのグループが、耕作していない田んぼに水をはっておくことによって、周辺の放射線量を低減しようという実験を行っています。中間報告がまとまりましたのでご紹介します。
セシウムで汚染され、耕作されていない水田では、土壌の中のセシウムから放射線が放出されて周辺の線量に影響を与えています。しかし、単に水田に水をはるだけで水の遮蔽効果によって生活空間の放射線量を低下させることができます。水による遮蔽効果は、水の層が厚いほど高いのですが、水田にはれる水の深さは10cmからせいぜい20cm程度。しかし、低い角度で出る放射線に対しては、10cmの水でも厚い層となりますので、高い遮蔽効果を期待できます。
久保教授らのグループが湛水の遮蔽効果を確認するために、佐須の田んぼに放射線計と水位計を設置し、水位と放射線量を測定した結果をグラフ化したのが下の図です。
横軸が水位、縦軸が放射線量(1分間あたりのカウント)です。水位が上がると放射線量が下がる傾向がわかります。
実験の詳細については、以下の資料をご参照ください。
水田代掻きと湛水による、放射線遮蔽効果に関する現地実験(PDF 1.3MB)
9月29日、飯舘村の菅野宗夫さん宅で久保教授がこの実験について参加メンバーに説明している動画です。残念ながらプレゼンテーションのディスプレイは見えないのですが、ふくしま再生の会は飯舘村ではいつもこんな感じでミーティングをしています、という雰囲気だけでも伝わればと。
久保教授によるプレゼンテーション(Ustream 56秒)
●飯舘村でやる意味
飯舘村には現在も全村避難指示が出されていて住んでいる方はいません(一部の方は残っておられます)。こうした状態で、空間線量を下げる意味があるのか、という疑問もあると思います。
しかし、以下の2点において、飯舘村の休耕田に水をはっておくことには意味があると考えます。
耕作していない田んぼに水をはっておくことは、もともとは放射線の遮蔽というよりは、生態系保全という視点から使われている手法です。たとえば、以下の参考サイトなどがあります。
【参考サイト】